2011年 04月 23日
まだ早いですよ!
上司から書類の説明や話をしたいと呼び出された。そこまでは近頃頻繁にある話。復職へ向けての事務手続きの話だったり、ワタクシの近況を報告をするのが目的である。本当は昼食を一緒にとろうと思ってくれていたようだが、デイケアの開始時刻と合わないため、お断りした。いつも奢ってもらってばかりでもあり、それを申し訳なく感じてもいる。
事務手続きの話をしている最中、上司が突然小声になった。これは恐らく周囲の人に聞こえてはまずいのだろうと直ぐに解った。
ワタクシが前回復職した時の課長が亡くなられたことを知らされた。思わず「エッ」と声を上げてしまったように思う。
もう退職されて数年経過している。多趣味な方で、悠々自適な生活を過ごされているのだと思っていた。退職後も毎年年賀状を下さった。しかし、今年は来なかった。
ワタクシは休職に入ってから年賀状を出すことを止めた。届いた方にだけ出すことにしたのである。ある方から頂いた年賀状に「年賀状なんか書かなくて良いので療養に専念しろ」と言った意味の言葉が書いてあったのである。よって、その翌年からこちらから出すことは止めた。まあ、経済的な理由もある。それやこれやで頂いた方へ年賀状を出すにとどまっている。復職すれば話は別。
繰り返しになるが、昨年まで元課長から年賀状を頂いていた。しかし今年は届かなかった。「気遣ってくれているのかなあ」なんて思う反面「また休職したので呆れられたのかも」と寂しくも思った。ところが、上司から聞いた話では、昨年末から入退院を繰り返していたと聞いた。そんな余裕は無かったのかもしれぬ。病名は書かぬが予後は良くないそうで、治る確率も極めて低いそうだ。
その課長と直接一緒に仕事をしたことはあまりない。当時ワタクシは年末に復職を遂げたのであるが、翌年の年度末に退職をされたのである。定年退職まではまだ期間があったようだが、その前に辞めると決めていたようである。これはご本人からも伺った。
復職したばかりでこれといって仕事のないワタクシは、喫煙所へ行っては暇を潰していた。課長も愛煙家であり良く同席させて頂いた。というより、どちらが先でもなく、ごく自然に二人で煙草を吸っていた。そして趣味に共通点が多い事に気付いた。全く同じでは無いのだが、ワタクシがかつて興味を抱いたこと、これからやってみたいこと、今はまっていることのそれぞれに重なる部分が多かったのである。上司に向かって言う言葉ではないが、気が合いそうだなあと感じた。恐らく課長も同じように感じてくれていたのではないかと思う。
ある時、コンサートの話をした。ある有名な方。と言うのは課長も同じジャンルがお好きと聞いたのだ。それで「恐らくこの機会を逃すともう二度と生で聴く事ができないと思うんですが、チケットが高いので迷っている」と言ったら「趣味には金をかけること!」とアドバイスを頂いた。結局その時のチケットはあっという間に売れてしまい、ワタクシは入手できなかったのだが、あの時言って下さった言葉を昨日の事のように覚えている。
ちなみにワタクシの思っていた通り、国内公演最後となった。後に亡くなられたアーティストである。
またある時、職場内でトラブルが起こった。担当者や上役は当然その成り行きを知っている。でも、誰も語らなかった。聞いてはいけない雰囲気も感じていたし、真実を知っている人は口を開きそうな気配もなかったのである。まして、復職したばかりのワタクシが聞けるはずもない。実害はなかったのがせめてもの救いだろう。
そんなときワタクシが喫煙所に行こうとしたら課長がやってこられた。たしか、そのトラブルについて会議があった直ぐ後だと思う。勿論ワタクシは蚊帳の外である。
「参りましたね」とワタクシが言ったように思う。そしてなんとなく尋ねてみたのである。ワタクシの疑問に対する答えなど絶対に返ってこないと思いながら。ところが「ここだけの話だけどよ〜」と課長に席を勧められるようにして座り、お互い煙草を吸いながら掻い摘んで話をして下さった。その直後部長が現れたので何事もなかったかのごとく振る舞ったのだが、部長はお気付きになっていたのかもしれぬ。でも、咎められることもなかった。そして、ワタクシは未だにその件を一切口外していない。
たしか課長の息子さんはワタクシと同じくらいの歳である。「うちの息子と同じくらいだな」と言ってたように記憶している。息子のように思っていてくれたのかもしれぬ。
ワタクシも課長を父親のように感じていたのかもしれぬ。
退職された後、ワタクシはプライベートでどこかに行けたら良いなあと思い続けていた。社交辞令で言ってくれただけかもしれぬが、ワタクシは本気だった。そんな風に思いながらも、また休職する事になってしまった。であるから、復職したら連絡しようと思っていた。
しかし本当に残念なことに亡くなってしまった。悲しすぎるではないか。
話は元に戻る。現在の上司も恐らくワタクシに言おうか言わまいか迷ったのではないかと思う。ただし、面識があったことを知っておられる。だから話して下さったのだと思う。「みんなには言っていない」とも言っていた。
ご家族は近親のみで式を執り行うことを希望されていると聞いた。元課長は儀式的なことは嫌いな方だった。ご本人の意向なんだとも思う。課長らしいなあ。
しかしながら、職場の人間全てをシャットアウトするわけにも行かないので、現上司がとりまとめを頼まれていると言っていた。プライベートでも親交があったので一任されたのだろう。
ワタクシは帰りがけに「せめてお香典くらい」とお話ししたのであるが「休職中なんだから気を遣わなくて良いんだよ」と返ってきた。確かに財政的に楽ではない。でも、恩を忘れてはいない。
亡くなられたことを知る前、趣味で欲しいものがあったのだが迷っていた。安いものではない。でも、本日買ってきた。思い切って。
元課長へのせめてもの弔い。そう「趣味には金をかけること!」と言われたではないか。勿論、ワタクシが欲しかったのも、かなり悩んでいたのも事実。でも、元課長の言葉が背中を押してくれたのだ。そうする事でせめてもの報いに繋がるのでは?と思ったのである。
間違いなく喪失体験である。結構きつい。でも、笑顔でひょっこり現れそうな気もする。
早すぎますよ。何で死んじゃったんですか!。もっと話したかったし、一緒に出かけたかったのに。置いていかれた気分になっちゃうじゃないですか。
切に切にご冥福をお祈りしています。悲しいけれど…。
これも人生なんですよねえ?。Kさん。
by donkeys-ear
| 2011-04-23 00:41
| 心のヤミ